英語の洋書と絵本 ANNIE'S BOOKSHELF

 MY BOOKSHELF 3

    21-30

Animal Farm

Breakheart Hill

Anne of Green Gables

HOLES

Never Let Me Go

The Tiger's Child

One Child

Harry Potter and the Philosopher's Stone

Of Human Bondage

Of Mice and Men

Animal Farm  (動物農場)

George Orwell

★★☆  英語難易度

(^^)/  お薦め 

共和国を目指し農場主を追い出した豚が独裁化してゆく風刺小説。


あらすじと感想

人間の不当な支配から脱するため農場主ジョーンズを追い出し、自分たちで理想の共和国、”動物農場” を作り出そうとした動物たち。ところが、次第に指導者の雄豚ナポレオンが独裁者と化し、人間の支配以上に悲惨な結末となる。(以上あらすじ)

 

イギリスのジョージ・オーウェル(1903-1950)による1945年の作。独裁者化してしまった豚はスターリンを風刺したものだという。登場するのは豚、馬、ロバ、カラス、犬、ヒツジ・・。人間の醜さを動物に置き換えるという設定が斬新で、我々人間が動物に馬鹿にされているような感覚になる。皮肉たっぷりで滑稽、読後はちょっと後味悪いような変な気分にさせられる。彼の作品では近未来の社会支配の恐怖を描いた ”1984” も有名だが、"Animal Farm"は100ページ程と短く読み易いと思う。

 

CHAPTER 2より~

読み書きを覚えた豚たちは、ANIMAL FARMを樹立する 

Then Snowball (for it was Snowball who was best at writing) took a brush between the two knuckles of his trotter, painted out MANOR FARM from the top bar of the gate and in its place painted ANIMAL FARM.

 

動物農場の平和を目指した7つの戒律を掲げる 

The commandments were written on the tarred wall in great white letters that could be read thirty yards away. The ran thus:

       THE SEVEN COMMANDMENTS

1. Whatever goes upon two legs is an enemy.

2. Whatever goes upon four legs, or has wings, is a friend.

3. No animal shall wear clothes.

4. No animal shall sleep in a bed.

5. No animal shall drink alcohol.

6. No animal shall kill any other animal.

7. All animals are equal.

                                   2012.

Breakheart Hill  (夏草の思い出)

Thomas H cook

★★☆  英語難易度

(^^)/  お薦め 

凄惨な事件と揺れ動く青春時代のエピソードが静かに語られるミステリー。


アメリカ、アラバマ州。ベンは30年前の高校時代に思いを寄せていたケリーに起きた凄惨な事件を回想する。揺れ動く青春時代のエピソードが静かに語られ、最後に予想外の結末が明かされる。

2012.

Anne of Green Gables  (赤毛のアン)

L. M Montgomery

★★☆  英語難易度

(^^)/  お気に入り 

孤児院から引き取られたアンが明るく生きていく様を描く。


あらすじと感想

孤児院から男の子を引き取ろうと希望していたマリラとマシュウのところに、赤毛でそばかすだらけの少女アンが間違ってやってきた。二人は明るく想像力一杯のアンを見て、育てることに決める。アンは親友のダイアナやいたずらな男の子ギルバートらと出会い、成長してゆく。(以上あらすじ)

 

カナダ、プリンスエドワード島を舞台としたモンゴメリー(1874-1942)の傑作。

名作 ”赤毛のアン” は簡単な児童書版を読んだだけで、少女の日常を描いた子供の本という先入観があった。この原書に挑戦しようと思ったのは、脳科学者の茂木健一郎氏の著書の中で、彼は高校生の時に原書を読んだという記述を見つけたからだ。東大受験など簡単、英語に関して言えば "赤毛のアン" などを原書で読めばよい。しばらく最初のうちは難解に感じるが、それを通り過ぎればどんどん読める。確か、このような記述だったような。確かに少女の日常をつづったストーリーだが、英語はなかなか高級で手ごわいし単なる児童書ではない。これを高校生で朝飯前とは、毎日の授業に苦労していた自分の高校時代を思うと、やはり氏はレベルが違った。

 

さて、読んだ感想は "感動" である。一度口を開くと空想の話が止まらないアン。いつも imagine  imagine  imagine で、相手の相槌を入れる隙もなく延々と自分の話が続いてしまう。彼女があまりに明るく前向きで時にうんざりすることもあるけれど、日々の生活でストレスを抱えている私にとっては、少しはアンを見習って素直になろうという気持ちにさせてくれた。本棚のガラスに映った自分に名前を付け友達として話しかけるエピソードは、アンの imagine の究極。些細なことで不満ばかりの我々より、人間としてずっと素晴らしい。こんな気持ちを持てればつらい時も美しい心でいられると、アンが教えてくれた。

 

CHAPTER 8 より~

本棚のガラスに映った自分をKatieと名付け、仲良しになるアン

”--When I lived with Mrs. Thomas she has a bookcase in her sitting room with glass doors. There weren't any books in it; Mrs.Thomas kept her best china and her preserves there--when she had any preserves to keep. One of the doors was broken. Mr. Thomas smashed it one night when he was slightly intoxicated. But the other was whole and I used to pretend that my reflection in it was another little girl who lived in it. I called her Katie Maurice, and we were very intimate. I used to talk to her by the hour, especially on Sunday, and tell her everything. Katie was the comfort and consolation of  my life.--”

  

呼ぶと帰ってくるエコーは友達のVioletta

”--There was no bookcase at Mrs. Hammond's. But just up the river a little way from the house there was a long green little valley, and the loveliest echo lived there. It echoed back every word you said, even if you didn't talk a bit loud. So I imagined that it was a little girl called Violetta and we were great friends and I loved her almost as well as I loved Katie Maurice.--”

 2012.2 

HOLES  (穴)

Louis Sachar

★☆☆  英語難易度

(^^)/  お薦め 

無実の罪で施設に送られたスタンレーの罰則は穴を掘ること。


あらすじと感想

著者はアメリカのルイス・サッカー(1954-)で発刊は1998年。翌年にニューベリー賞を受賞している児童文学である。お薦めの洋書と検索をかけるとどのサイトにも登場する作品なので、思いきって手に取ってみた。

 

貧しい少年スタンレーは靴を盗んだという無実の罪で逮捕され、矯正施設のグリーンレイクキャンプへ送られる。そして、毎日毎日穴を掘る生活が始まった。(私が想像していた穴掘りとだいぶ違っていた。(笑) もっとSFっぽい話なのかと思っていた。)ストーリーはテンポよく進み、複雑に張り巡らされた伏線が最後に一つになり、穴を掘る理由が明らかになる。児童書なのでシンプルで、緻密な描写はほとんどない。少し読むとすぐに次の章に移るので、どんどん読めている感じがする。易しいのに秀逸なストーリー。なるほど、多くの人が薦めているように洋書学習者にお薦めの1冊だった。

 

CHAPTER 1より~冒頭 

There is no lake at Camp Green Lake. There once was a very large lake here, the largest lake in Texas. That was over a hundred years ago. Now it is just a dry, flat wasteland.

2012.

Never Let Me Go  (私を離さないで)

Kazuo Ishiguro

★★☆  英語難易度

(^^)/  お薦め 

施設で過ごすキャシー、トミー、ルースは、ドナーという宿命を背負う。 


あらすじと感想

Kazuo Ishiguroは、日本生まれイギリス国籍の作家。イギリスでは著名な作家だ。2005年発表の本作はイギリスブッカー賞の最終候補作という。その後、2010年にイギリスで映画化されている。

 

舞台は1990年代末のイギリス。物語は、”介護人”として働く主人公キャシーが ”提供者”を介護するシーンから始まり、やがて子供時代の回想シーンへと移る。しばらく読み進めるが、英語はわかりやすいのに意味がつかめず、途中から内容が分からなくなり、再度最初から読み直すことになってしまった。が、やはり理解できない。それもそのはず、設定があまりに現実離れしていたためであって、英語は読めていた。

 

キャシーはヘールシャムと呼ばれる隔離された私立学校で育つ。そこは展覧会に出品するための絵画を描いたり、毎週の健康診断があったりと、かなり特殊な施設だった。友人のトミーとルースとの友情や恋愛も静かなタッチで描写されていて、終始陰鬱な雰囲気が漂う。物語は後半になって、やっと不可解な部分が解き明かされる。なんと彼らは臓器を提供するドナーとして生まれてきたクローン人間で、その運命から逃れることができないのだ。そして,数回の提供を経て死を迎えるのである。単純な思考回路の私はただただ驚愕。このクローンという現代の医療をモチーフにした本作はSF小説なのか、それとも純文学なのか。感動したというのとは少し違う不思議な感覚の読後になった。終盤でのノースフォークの街並みの様子は、いかにもイギリスらしくて懐かしい。

 

CHAPTER 1より~キャシーは介護士として働く31歳。

My name is Kathy H. I'm thirty-one years old, and I've been a carer now for over eleven years. That sounds long enough, I know, but actually they want me to go on for another eight, until the end of this year. 

2011.

追記 (アメブロより)

2017年10月5日、夕食後テレビを見ていると、著者のカズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞とのテロップが流れました。本作品は私が読んだ洋書の中でも特に印象深いもの1つです。2016年にTBSで放映された、綾瀬はるか主演のテレビドラマを見たのも記憶に新しいのですが、この手の作品は原作の小説に限る、という典型的な例のような気がしていました。深いテーマを持った作品であるにも関わらず、特異なストーリーを非常に静かなタッチで描写しているので、その独特の雰囲気は文章を読むことによって感じ取れるものだと思います。映像化してしまうと陰鬱さが前面に出てしまって、人気俳優が演じているにもかかわらず、作品の良さが十分に視聴者に伝わっていないのではないかと感じていました。ニュースでは、ハルキスト達が今年も落胆している映像も流れました。私は村上春樹は苦手なのですが、カズオ・イシグロの本作品は自分の中に入ってきました。よい作品を読んでいたことをうれしく感じます。

2017.10.5

The Tiger's Child 

(タイガーと呼ばれた子)

Torey Hayden

★★☆  英語難易度 

One child(シーラという子)の続編。


7年後、成長したシーラに再会した著者は、再び悲惨な生活を送っていた彼女に愕然とする。著者は、道を踏み外しそうになるシーラに再び手を差し伸べる。

 2011.

One Child   (シーラという子)

Torey Hayden

★★☆  英語難易度

(^^)/  お薦め 

親にネグレクトされて育った幼いシーラが心を開くまで。


親にネグレクトされて育った幼いシーラは非道な事件を起こすが、作者はそんな彼女に教師として温かく接し教育していく。反抗的だったシーラが、やがて心を開いていく感動の一冊。

 2011.

Harry Potter

and the Philosopher's Stone

(ハリーポッターと賢者の石)

J. K. Rowlings  

★★☆  英語難易度

(^^)/  お薦め 

世界的大ヒットを記録したJ.K.ローリングのベストセラー。


あらすじと感想

同じジャンルの物を続けて読むと飽きが来るので、今回は久々のファンタジーに挑戦することなった。ホグワーツ魔法学校で成長し、闇の魔法使いヴォルテモートとの戦いを続けるハリーポッター。翻訳ものを先に読み、映画を見て、テレビ放映の度にチャンネルを合わせ、最後に発売当初に買ったまま読まず終いだった原書版をやっと読むことになった。

 

CHAPTER 1  The boy who livedより~冒頭  

Mr and Mrs Dursley, of number four, Privet Drive, were proud to say that they were perfectly normal, thank you very much.

 

1997-2007に渡る全7巻のハリーポッターシリーズの中でも、やはり第一巻が一番いい。初めてのホグワーツ入学にわくわくしているハリーはかわいいし、出てくるものすべてが奇をてらっていて新鮮だ。翻訳版より原書の方が絶対いいと感じたのは、やたらに難解な登場人物の名前や魔法の呪文。意味不明のカタカナも英語だと割とすんなりと入ってくる。( ”例のあの人” は ”You-Know-Who" だったり ) 一巻の最後、ヴォルテモートが姿を現す"The man with two faces" の章は圧巻だった。それにしても、我が家の子供たちとハリーたちの成長を重ね合わせたり、昔滞在したイギリスの街並みを思い起こしたりと、ハリーポッターシリーズは私にとってちょっと特別だ。”ヘドウィグのテーマ”の楽譜をネットで探して弾いてみることにした。

2011.9 

Harry Potter ~ Hedwig's theme   

ピアノ:アニー

Of Human Bondage  (人間の絆)

W. Somerset Maugham

★★☆  英語難易度

(^^)/  お気に入り

生きる意味を模索するフィリップの成長の軌跡を描いた、文豪モームの自伝的小説。


あらすじと感想

幼くして両親を亡くし牧師の叔父夫婦に育てられる少年フィリップ。足の障害のため級友にからかわれた少年時代は 彼を他人の目を気にする内気な性格にする。卒業後は周囲の反対を押し切りドイツ留学へ。帰国後は会計事務所の見習い、次はパリで画家を目指すも一流になりきれず挫折、ロンドンで医者を志すこととなる。カフェのウェイトレス、ミルドレッドにのぼせあがり世話を焼き、株で金を失いその日暮らしの日々を送るが、叔父が死んだことで遺産を手にし、何とか医師の資格を取る。最後は苦境時代を救ってくれた恩人の娘と結婚し自立していく。(以上あらすじ)

                                   

サマセット・モーム (1874-1965)はイギリスの小説家。パリに生まれる。人間の絆は1915年、モーム40歳の作で、600ページを超える長編である。bondage は、束縛 の意。幸福の追求という束縛から自由になる過程を描く。

 

文豪モームの自伝的小説ということで どのような素晴らしい一生を送ったのか興味を持って読み始めた。意外にも、描かれていたのは我々と等身大の人間フィリップ。彼は基本的にいい人間だ。優秀であるし才能もある。そんな彼が足の障害という外見上のコンプレックスを抱えながらも 人生の挑戦と挫折を繰り返しながら真剣に生きてゆく様は、時として自分自身の経験と重なり感情移入した。唯一、 読んでいてさすがに嫌気がさしたのは、好きになったミルドレッドに冷たくあしらわれても これでもかと言うほど世話を焼くくだりである。いい加減に放っておけば良いのにと、何度思ったことか。

 

結局、時代や国が違っても 人間の悩みというものの根本は同じなのだろう。だから、100年も前の小説が少しも色褪せることなく感動を与えてくれるのだと思う。物語の後半106章最後の部分、フィリップが人生の意味を見つけ出した個所は圧巻である。読み手はすでに500ページ超をフィリップと紆余曲折を共にし そしてついに彼が達観する瞬間に出合う。 ”幸福や苦痛などたいした意味がない。ペルシャ絨毯のように人生という模様を精妙に織りなすために入ってくるのだ。” 不幸が続いた自分の人生にも意味を見出してくれた一節である。(以下、高尚な中野好夫訳も併せて記す。)

Chapter 22より~ドイツ留学で 新鮮な解放感と幸福感を味わうフィリップ 

Philip arrived in Heidelberg one morning in May.

The sky was bright blue, and the trees in the avenue through which they passed were thick with leaves; there was something in the air fresh to Philip, and mingled with the timidity he felt at entering on a new life, among strangers, was a great exhilaration.

5月のある朝、フィリップは、ハイデルベルヒに到着した。

空は、青く澄み、通ってゆく街の並木は深々と葉が繁っていた。フィリップには、大空の中にまで、なにか新鮮なものが感じられ、知らない人々の中での新しい生活に入ってゆくについて、彼が感じる気怯れに交じって、一方はまた、すばらしく快い興奮があった。

 

Though he did not know it, it was the first time that he had experienced, quite undiluted with foreign emotions, the sense of beauty.

 "By jove, I am happy," he said to himself, unconsciously.

自覚こそしなかったが、フィリップが、全く純粋無雑、なんの異分子も交えぬ、真の美的感覚を経験した、これが実に最初だった。

 ”ああ、幸福だ、僕は。” と、彼は、思わず、口の中で呟いた。

 

Chapter 50より~画家を目指すパリで行き詰まりを感じ悩む 

"I wonder if it's worth while being a second-rate painter. You see, in other things, if you're a doctor or if you're in business, it doesn't matter so much if you're mediocre. You make a living and you get along. But what is the good of turning out second-rate pictures?

"つまりね、二流画家なんてものになる意味が、いったいあるだろうか、というんだよ。いいかね、これがほかの職業ならばだよ、たとえ医者になる、実業家になる、それなら、二流、凡庸で、ちっとも構わないと思うんだ。ちゃんと金を儲けて、食って行ける。ところがね、二流の画なんぞ描いて、いったいなにになる?”

 

Chapter 51より~フォアネ先生の言葉でフィリップは画家の道を諦める決心をする 

"Money is like a sixth sense without which you cannot make a complete use of the other five. Without an adequate income half the possibilities of life are shut off."

”金銭というものは、いわば第六感みたいなもんだ。 こいつがなければ、ほかの五感も、とうてい安全に使えるものではない。 適当な収入というものがなければ、人生の可能性のまず半分からは、閉め出しを食らったみたいなもんだな。”

 

"But if you were to ask my advice, I should say: take your courage in both hands and try your luck at something else.

I would give all I have in the world if someone had given me that advice when I was your age and I had taken it."

"だがね、もし君が、私の意見を聞きたいというのなら、言ってあげよう。一つ、しっかりと勇気を出して、なにかほかのことを、やってみるんだね。

私が、君の齢頃だった時分にだねえ、もし誰か、この忠告をしてくれたものがあったら、私は、どんなに有難かったかしれない。そして、きっと、その忠告に従ったろうねえ。” 

 

Chapter 73より~ブライトンに静養に行くミルドレッドとフィリップ

As the train approached Brighton the sun poured through the carriage window.

Since it was early for luncheon, Philip and Mildred sat in one of the shelters on the parade, sunning themselves, and watched the people pass.

The sun shone on the blue sea, and the blue sea was trim and neat.

After luncheon they went to Hove to see the woman who was to take charge of the baby. 

汽車がブライトンに近づく頃には、陽の光が、サンサンとして、車の窓から、射しこんでいた。

昼食には早かったので、二人は、遊歩場の小屋に休み、日向ぼっこをしながら、通る人々を眺めていた。

日の光が、青い海に照り、青い海は、きちんと、小奇麗に、静まりかえっていた。

昼食をすますと、二人は、例の赤ん坊を預かるという女に会いに、ホーヴへ行った。

 

Chapter 106より~百貨店で働くことをローソンに気の毒がられるフィリップ

" I say, I'm awfully sorry. What are you doing?"

"I'm a shop-walker."

 The words choked Philip, but he was determined not to shirk the truth.

”ふむ、そりゃいけないねえ。で、なにしてるんだい、いったい?”

”案内係だよ、百貨店の。”

 思わず言葉が喉に詰まった。が、思い切って、誤魔化さないことにした。

 

Chapter 106より~友人クロンショーがくれたペルシャ絨毯に人生の意味を見出す 

His life had seemed horrible when it was measured by its happiness, but now he seemed to gather strength as he realized that it might be measured by something else. Happiness mattered as little as pain. They came in, both of them, as all the other details of his life came in, to the elaboration of the design. He seemed for an instant to stand above the accidents of his existence, and he felt that they could not affect him again as they had done before. Whatever happened to him now would be more motive to add to the complexity of the pattern, and when the end approached he would rejoice in its completion. It would be a work of art, and it would be none the less beautiful because he alone knew of its existence, and with his death it would at once cease to be.

 Philip was happy.

幸福という尺度で計られていた限り、彼の一生は、思ってもたまらないものだった。だが、今や人の一生は、もっとほかのものによって計られてもいい、ということがわかってからは、彼は、自然勇気の湧くのを覚えた。幸福とか、苦痛とか、そんなものは、ほとんど問題ではない。それらは、彼の一生における、いろいろほかの事柄と一緒に、ただ意匠を複雑、精妙にするだけに、入って来るものであり、彼自身は、一瞬間、彼の生活のあらゆる偶然の上に、はるかに高く立ったような気持がして、もはや今までのように、それらによって動かされることは、完全にあるまいと思えた。たとえどんなことが起ころうと、それは、ただ模様の複雑さを加える動機が一つ、新しく加わったということにすぎない。そして人生の終わりが近づいた時には、意匠の完成を喜ぶ気持、それがあるだけであろう。いわば一つの芸術作品だ。そして、その存在を知っているのは、彼一人であり、たとえ彼の死とともに、一瞬にして、失われてしまうものであろうとも、その美しさには、豪も変わりないはずだ。

 フィリップは幸福だった。(中野好夫訳)

 

洋書の読後にいつも感じるのだが、日本語訳版でも同じように感動できるだろうか。まず、英語の本を1冊読み終えたという満足感。新しい単語や気の利いた言い回しにも出会う。しかも英語で読むには日本語よりずっと時間がかかるから、結果としてどっぷり本の世界に浸ることとなる。結局、時間をかけて読んだ長編ほど深い感動につながり、記憶にもよく残っているような気がする。人間の絆 は、そんな一冊であった。

2011.8

Of Mice and Men 

(二十日ねずみと人間)

John Steinbeck

★★☆  英語難易度

(^^)/  お薦め

アメリカの季節労働者ジョージとレ二―の友情と悲劇を描く。


あらすじと感想

大恐慌時代のアメリカ、カリフォルニア。季節労働者として農場を渡り歩く、大男で知恵遅れのレ二ーと、小柄で気の利く相棒のジョージ。レ二―は柔らかい小動物をかわいがるのが大好きで、その力ゆえいつも誤って殺してしまう。ジョージはそんなレ二―を大切に思いながら、いつか自分の農場を持つことを夢見ている。ある日、仕事場の農場の納屋で、レニーが死んだ犬に打ちひしがれていると、農場主の息子カーリーの妻が慰めにやってくる。ところが、レニーは若く美しい彼女をいつものように無意識のうちに殺してしまう。驚いて逃げるレ二―をジョージは自分の手で撃ち殺す決断をする。(以上あらすじ)

 

1962年にノーベル文学賞を受賞したジョン・スタインベック (1902-1968) の作品。彼の作品に挑戦したい時、”怒りの葡萄” や ”エデンの東” も有名であるが、本書は100ページほどで会話も多く英語が読みやすい。下層階級の男たちの物語の中に主人公二人の熱い友情を感じ、最後に相棒を撃ち殺すことになった悲劇の結末に読後は深い余韻が残った。

2011.7