英語の洋書と絵本 ANNIE'S BOOKSHELF

 MY BOOKSHELF 8

71-80

I Am Malala

The Kite Runner

Pax

The Giver

American Pie

My Humorous Japan

The Pianist

Becoming Nicole

Because of Winn-Dixie

The Last Girl

I Am Malala: The Girl Who Stood Up For Education And Was Shot By the Taliban

(私はマララ:教育のために立ち上がりタリバンに撃たれた少女)

Malala Yousafzai

★☆  英語難易度

(^^)/  お薦め


あらすじと感想

1997年、マララ・ユスフザイは、パキスタン北西部アジアのスイスと言われる自然豊かな Swat (スワート渓谷) に生まれた。家族は両親と二人の弟。父が地元で学校を経営していたため、マララは幼い時から学校で育ち勉強熱心な少女だった。2007年マララ10歳の時、タリバンが侵攻しSwatを支配。彼らは女子が学校に行くことを禁じ、多くの学校を破壊、自爆テロが全土で日常茶飯事となる。2009年、マララはBBCの依頼でペンネームによりタリバン蛮行下の日常をブログで発信、女子教育や平和の重要性を訴えた。

 

タリバンがパキスタン軍の攻撃により撤退すると、彼女はパキスタン政府により 表彰(後にMalala Prize となる)され、講演会等に出席するようになる。しかし、これらの行動によりタリバンから命を狙われることとなり、2012年マララ15歳の時、学校から帰宅途中のスクールバスで頭部と首に銃弾を受ける。奇跡的に命を取り留めた彼女は、イギリスバーミンガムの病院に搬送され再手術を受け回復。現地の学校に通い、17歳の時にニューヨークの国連にて教育の重要性を演説した。(以上あらすじ)

 

"The Kite Runner" でアフガニスタンの歴史に触れることになり、主人公の脱出先、隣国のパキスタンにも興味が向いた。そんな時、ちょうど娘がパキスタンの女性と知り合いになったという。そんなことで、最年少でノーベル平和賞を受賞したパキスタン出身のマララさんの自伝を読んでみたくなった。マララは "The Kite Runner" の主人公と同じくパシュトゥン人、イスラム教スンニ派で、生活や文化は共通している。しかしマララは女性。イスラム文化での女性の置かれた境遇を考えた時、以前読んだ "The Last Girl" にも重なるところが多い。

 

Chapter 1 より~女の子が生まれても喜ばれない

I was a girl in a land where rifles are fired in celebration of a son, while daughters are hidden away behind a curtain, their role in life simply to prepare food and give birth to children.

 

Chapter 1 より~女性は家で男性の世話をし、男の家族なしでは自由に外出できない

We all played cricket on the street or rooftops together, but I knew as we got older the girls would be expected to stay inside. We'd be expected to cook and serve our brothers and fathers. While boys and men could roam freely about town, my mother and I could not go out without a male relative to accompany us, even if it was a five-year-old boy! This was the tradition.

 

Chapter 5 より~学校ではスピーチの原稿は父親かおじか先生が書く

In our culture speeches are usually written by our fathers, uncles or teachers.

 

Chapter 6 より~嫁ぎ先から出戻るのは恥なので実家でも受け入れてくれない

Khalida had been sold into marriage to an old man who used to beat her, and eventually she ran away with her three daughters. Her own family would not take her back because it is believed that a woman who has left her husband has brought shame on her family.

 

教育を第一に考える両親の下で育ったマララ。親の時代はちょうど "The Kite Runner" と重なる。父親は吃音があり、貧しく苦労して教育を得たことなどが、政治的背景と共に描かれている。意外にも母親は他の一般女性と同じく読み書きができない。字の読めない女性は、一歩外に出ればどこにも行けず何もできない。だからこそ尚、マララには教育を与えたかったようだ。マララ自身は、学校でいつも1番を目指して勉強に励む頑張り屋。一方で、弟たちとは喧嘩が絶えなかった様子や、背が伸びず悩んでいたことなど、普通の女の子としての一面も覗かせる。

 

Chapter 11 より~タリバンが教育を奪ったことにより、教育の重要性を認識した

Though we loved school, we hadn't realized how important education was until the Taliban tried to stop us.

 

Chapter 13 より~タリバンは教育が西欧化をもたらすと主張する

"They can stop us going to school but they can't stop us learning," I said.

(略)

The Taliban is against education because they think that when a child reads a book or learns English or studies science he or she will become Westernized.

 

EPILOGUE より~ニューヨークの国連で演説

"Let us pick up our books and our pens," I said. "They are our most powerful weapons. One child, one teacher, one book and one pen can change the world."

 

国連での堂々たるスピーチぶりは、学校のスピーチ大会をはじめ、人前で話す経験を積み重ねることにより身についたものだと知った。命の危険を冒しても尚勉強に励み、教育こそ武器に勝ると世に訴え続ける意思の強さは、我々凡人の域を超え、ノーベル平和賞を受賞するに値すると感心しながら読んだ。英語は読みやすく、イスラム文化やパキスタン情勢についても知ることのできる一冊。

 

1977年 Ziaのクーデターでブットー(父) 処刑される

1979年 ソ連軍のアフガニスタン侵攻

1988年 Zia大統領飛行機墜落事故で急死、イスラム初の女性首相ブットー(娘) 

1997年 マララ、パキスタンのミンゴラで生まれる

1998年 シャリフ首相核実験

1999年 クーデターでムシャラフ大統領になる

2005年 パキスタン地震

2007年 タリバン侵攻、モスク立てこもり事件、ブットー(娘) 暗殺、

2009年 マララ、ブログを発信

2010年 パキスタン水害

2011年 ビン・ラディン殺害、Malala Prize受賞

2012年 マララ(15歳)撃たれる

2013年 マララ国連で演説、オバマ大統領と会談

2014年 マララ(17歳)ノーベル平和賞

 2019.6

パキスタン(朝日デジタルより)

The Kite Runner

(君のためなら千回でも)

Khaled Hosseini

★★☆  英語難易度

(^^)/  お薦め

アフガニスタンとアメリカを舞台に少年時代の贖罪に立ち向かう。


あらすじと感想

アフガニスタン・カブール。少年アミールは裕福な家庭の一人息子で、人望のある父ババと暮らしている。ハザラ族の使用人アリの息子で一つ違いのハッサンとは、兄弟のように育った。しかし1975年の冬、アミールとハッサンが凧揚げ大会で優勝した後、ある事件が二人の友情関係を崩す。アミールのために凧を追ったハッサンがレイプされる現場を目撃しながらも、アミールは彼を助けることなく逃げ出したのだ。アミールの臆病な性格はハッサンへの更なる裏切り行為を引き起こし、やがてハッサン親子は家を去っていった。アフガニスタンでは王政が崩壊、1979年ソ連の進攻が始まり、アミールと父はカブールを脱出しパキスタン・ペシャワールを経てアメリカ・サンフランシスコへ逃れる。

 

アミールはアメリカで大学を卒業し、同郷のソラヤと知り合い結婚して作家としてのキャリアを得る。一方、父ババはガスステーションで働き息子を育て結婚式を見届けると、病でその生涯を閉じた。2001年、かつて父の親友であり慕っていたラヒム・ハーンから病の電話を受け、アミールは故郷へ向かう決心をする。パキスタンでラヒム・ハーンに再会したアミールは、そこで驚くべき真実を知らされることとなる。ハッサンは妻と共にすでに殺害されていたこと、そして彼の父がババであることを。ハッサンの息子ソラブを助け出すため、タリバーン支配による混乱のアフガニスタンに足を踏み入れると、ソラブを捕えていた兵士は昔ハッサンを辱めたアセフだった。辛くも脱出したアミールは、ソラブを養子としてアメリカに連れて帰る。(以上あらすじ)

 

アフガニスタン・カブール出身のカーレド・ホッセイ二により、2003年アメリカで出版されたベストセラー。2007年に映画化される。 

宗教と民族による差別、貧富の格差、親子の葛藤、信頼すべき友への裏切り。まだ混乱前のアフガニスタンでのアミール少年の日常の一つ一つが、その後の物語の鍵になる。彼の繊細な心の揺れが緻密に描かれ、同時に、見たこともないカブールの街や人々の生活が目の前に浮かび上がってくる。

 

裕福な暮らしを送るアミール父子は多数派のパシュトゥン人でスンニ派。使用人のハッサン父子は少数派のハザラ人でシーア派。ハザラ人はパシュトゥン人により虐げられている。アミールだけが学校に行き、ハッサンは彼のために食事の準備をし、読み書きもできない。しかし、父ババは常にハッサン父子を気にかけ、母親を失った同じ境遇のアミールとハッサンは同じ乳母から育った仲だ。立場は違っても、知恵と勇気にあふれるハッサンは、気弱なアミールにとって頼れる最良の友でもあった。

 

FOURより~アミールが初めて書いた物語

It was a dark little tale about a man who found a magic cup and learned that if he wept into the cup, his tears turned into pearls. But even though he had always been poor, he was a happy man and rarely shed a tear. So he found ways to make himself sad so that his tears could make him rich. As the pearls piled up, so did his greed grow. The story ended with the man sitting on a mountain of pearls, knife in hand, weeping helplessly into the cup with his beloved wife's  slain body in his arms.

 

父からの愛情を十分感じられずにいたアミールだが、父の親友ラヒム・ハーンに自作の物語を認められ、うれしくてハッサンをたたき起こして読み聞かせる。ハッサンは答える。"Some day, you will be a great writer," そしてこんなことを付け加える。 "why did he ever have to feel sad to shed tears? Couldn't he have just smelled an onion?" 小さなエピソードを通して身分の違う主人公達が魅力的に描かれていて、読者をひきつける。アミールは後に、本当に作家として成功するのだ。

 

SEVENより~ハッサンはアミールのために凧を追う。君のためなら千回でも。

  "Hassan!" I called. "Come back with it!"

  He was already turning the street corner, his rubber boots kicking up snow. He stopped, turned. He cupped his hands around his mouth. "For you a thousand times over!" he said.

 

自分のために凧を追ったハッサンが事件に遭ったにもかかわらず、その場を逃げ出したアミール。彼の臆病さは結果として友の人生を破壊した。その裏切りへの贖罪の機会が訪れたのはそれから26年後。父ババと逃れたアメリカで妻ソラヤと結婚し、作家としてのキャリアを確立していた。"There is a way to be good again."

 

アメリカへの逃避劇、その後のアフガニスタンコミュニティーでの生活、そして混乱の続く生まれ故郷への贖罪の旅は、アフガニスタン出身の著者のみが描き得るストーリーだ。タリバーンによる男女の処刑のシーンは生々しく、読むのが辛かった。そして最終章、アメリカに引き取った亡きハッサンの息子ソラブとの凧揚げのシーンで、再びあの言葉が出る。"For you, a thousand times over," 

 

英語は比較的平易。巧みな描写に引き込まれ、何度も涙しながら夢中になって読んだ。著者は15歳の時アフガニスタンより難民としてアメリカに渡り医者となった経歴の持ち主だ。本書はフィクションとノンフィクションが混在しているとは思うが、単なる回想記録としてでなく、小説として読者に読ませるよう練られているところが秀逸だ。アミールの幼さゆえの臆病さも誰にでも経験があるだろう。多くの読者が自分自身の過去と照らし合わせて共感したのではないか。重いテーマではあるが久しぶりに感動的な小説を読んだ。

 

1963年 アミール生まれる

1964年 ハッサン生まれる

1973年 クーデターで王政廃止

1975年 凧揚げ大会

1978年 社会主義革命起きる

1979年 ソ連のアフガン侵攻(対、米国支援のイスラム義勇兵ムジャヒディン)

1981年 アミール父子カブール脱出

1989年 ソ連撤退 ムジャヒディンからタリバーン政権が(更にアルカイダが)生まれる

1996年 タリバーンがカブールを占領

1998年 ハザラ人虐殺

2001年 アフガニスタンに戻りソラブを引き取る

2001年 9.11同時多発テロ アルカイダのビンラディンを匿うタリバーンへ空爆

2004年 アフガニスタン・イスラム共和国発足 カルザイ大統領

2011年 アメリカ軍撤退開始 

 2019.5

アフガニスタン(Wikipediaより)

Pax (キツネのパックス)

Sara Pennypacker

★★☆  英語難易度

(^^)/  お薦め

少年とキツネが再会するまでを描いた児童書。


あらすじと感想

ピーターは12歳。死にかけていた子ギツネを助けてパックスと名付け、心を通わせ一緒に暮らしてきた。そして、戦争が始まり父親は軍隊へ。パックスを森へ置き去りにして、ピーターは300マイル離れた祖父の所へ預けられる。しかし彼はパックスの所に戻るためすぐにそこを出た。歩き出して程なく足をくじいたピーターは、ヴォラという女性に助けられる。彼女は過去に戦争に従事し片足を失い、PTSDを患っていた。ピーターはヴォラの作ってくれた松葉杖を使い、再びパックスのもとへ向かう。

 

一方、森に残されたパックスはひたすらピーターの帰りを信じて待っていた。両親を人間に殺されたメスギツネの Bristle と弟の Runt、老ギツネ Gray に出合うと、人間の匂いのするパックスは初め警戒されたが、徐々にえさの取り方を学び彼らと行動を共にする。しかしGray は地雷に触れて命を落とし、Runt は後ろ脚を失ってしまう 。そしてついにパックスはピーターとの再会を果たすが、 Bristle と Runt と共に野生に戻っていくのだった。(以上あらすじ)

 

サラ・ペニーパッカーにより2016年に発行された児童書。

最初に目を引くのが表紙のイラスト。森に置き去りにされてもピーターを信じて待っているパックスの後ろ姿が、愛らしくて切ない。生後間もなく家族を亡くしてピーターに助けられたパックスと、自身も母親を事故で亡くしてからパックスを一番の親友として世話してきたピーター。二人の絆が強く結ばれていて、もう一度再会させてあげたいと祈るような気持ちで読んだ。人間に飼われピーナッツバターが大好物で獲物の捕り方も知らないパックス。他のキツネたちに会い、少しずつ外の世界で生きていく術を学んでいきほっとするのだが、最後はピーターと再会しても野生に戻っていってしまって、個人的にはちょっぴりさみしかった。

 

ストーリーのもう一つの鍵になっているのが、ピーターを助けるヴォラのお話。戦争から帰還後、PTSD (post traumatic stress disorder) 心的外傷後ストレス障害で孤独に過ごしていたが、足をくじいたピーターの世話をすることで、少し自分を取り戻すようになる。物語の時代も場所も特定されていないが、戦争が人間にも動物にも不幸をもたらすことが全編を通して暗示されている。

 

Chapter 6 より~

老ギツネはパックスに、戦争は人間の病気だと言う。

When war comes, they will be careless.

What is war?

Gray paused. There is a disease that strikes foxes sometimes. It causes them to abandon their ways, to attack strangers. War is a human sickness like this.

 

ストーリーはシンプルで読みやすいが、児童書にしては単語が難しくて読み飛ばしたり調べたり。でもところどころの挿絵が素敵でイメージが膨らむ。ぺらぺらとページをめくると、最終章でピーターとパックスが林の中でハグしているイラストを最初に見つけてしまったから、早く最後までたどり着きたくて一気に読んだ。

2019.5

The Giver

(ギヴァー記憶を注ぐ者)

Lois Lowry

★☆☆  英語難易度

近未来の管理社会を描いた児童文学のベストセラー。


あらすじと感想

ジョナスは11歳。両親と7歳の妹リリーと "ファミリーユニット" を作って "コミュニティ" に暮らしている。そこは、すべてが管理された社会。子供たちは12歳になるとそれぞれの適正に応じた職業を割り当てられる。友達のアッシャーは "Assistant Director of Recreation"、フィオナは "Caretaker of the Old"、そしてジョナスはただ一人の "Receiver of Memory" に抜擢された。ジョナスの使命は他の人が誰も持ちえない "記憶" を "Giver" から譲り受けること。孤独で時に痛みを伴う修行により、彼は色や音楽や戦争の意味を知る。(以上あらすじ)

 

アメリカのロイス・ローリーによる児童文学で、1993年にニューベリー賞を受賞し、2014年に映画化される。 

結婚や職業などすべてがコントロールされたコミュニティにおいて、苦痛や争いがない代わりに喜びの感情も抑制された社会が、果たして理想のユートピアかどうか。自由競争により貧富の格差が広がり戦争がなくならない現実社会の対極ではあるが、一見平和で平等な管理社会に見落とされた欠点が浮き彫りになってゆく。子供たちに与えられる将来の職業で衝撃的だったのは "Birthmother"。3年間で3回の出産をする間は遊んで暮らせるが、その後は肉体労働をするというもの。小説中のコミュニティは決して実現不可能ではない設定だけに衝撃を受けた。英語も読みやすく、今を生きる社会について考えるきっかけを与えてくれる一冊。

 

Chapter Sixteenより~

ジョナスは "愛" という概念を初めて伝えられる。

  Jonas hesitated. "I certainly liked the memory, though. I can see why it's your favorite. I couldn't quite get the word for the whole feeling of it, the feeling that was so strong in the room."

 "Love," The Giver told him.

  Jonas repeated it. "Love." It was a word and concept new to him.

 

両親は "愛" を理解していなかった。

  "Do you love me?"

(略)

  "Your father means that you used a very generalized word, so meaningless that it's become almost obsolete," his mother explained carefully.

2019.3

American Pie

Slice of Life Essays on America and Japan

Kay Hetherly

★☆☆  英語難易度

日本通のアメリカ人による易しく読めるエッセイ集。


NHK「ラジオ英会話」のテキストで好評連載中の英文エッセイが一冊に。日本通の著者ならではの鋭い視点で描く、アメリカと日本。1編が600ワード前後なので、短い時間を利用して気軽に読める一冊。(amazonより)

 

"My Humorous Japan" と一緒に読んでみた。個人的には "American Pie" の方が楽しめた。”My Humorous Japan" の方はどちらかというと日本の生活がメインに綴られていたが、本書は日本と比較したアメリカの生活について描かれていてより興味が持てた。例えば "Love It or Leave It"、"Please, I'd Rather Do It Myself!"、"Don't Mess with Texas" など。著者はテキサス出身でアメリカ文学の専門とのこと。知っている小説や映画が話題になっていたり、また同じ女性ということで似たような視点で読めたかもしれない。英語に関しては、単語は大変平易ながら "My Humorous Japan" のような教科書感はなく、いつもの洋書の感覚で読んだ。

2019.3

My Humorous Japan

Brian W. Powle

★☆☆  英語難易度

イギリス人が日本生活をユーモラスに綴ったエッセイ集。


滞日20年の親日派英国人ブライアン・W・ポール氏が、愛情込めて綴るユーモアとペーソスあふれる日本人と日本人の生活。英国流のユーモアを楽しみながら、英語上達にも最適。「ラジオ英会話」に掲載。(Amazonより)・・・ということで読んでみた。

 

何だかいつも読んでいる洋書と違うなあと思いつつ読んでいると、本当に学校で習った基本的な構文で書かれていて教科書の文章のようだということに気づいた。そういう意味では英語の絵本より読み易い。内容は、The Daily Fight on Japanese Trains や、Britain and America Are Divided by English! など英語学習者にも馴染みのあるトピック。

2019.3

The Pianist (戦場のピアニスト)

Wladyslaw Szpilman

★★☆  英語難易度

(^^)/  お薦め

第二次大戦中のワルシャワを生き延びたユダヤ人ピアニスト


あらすじと感想

1939年、第二次大戦が勃発し、ポーランド、ワルシャワにナチスドイツが侵攻する。ドイツ軍の過激な弾圧は日増しに悪化し、ユダヤ人ピアニストのシュピルマンは家族と共にゲットーでの生活を強いられる。ユダヤ人たちは日々、飢えや病、暴力、殺害に脅かされていた。1942年一家はついに収容所に移送させられることになるが、列車に乗り込む寸前、シュピルマンだけは知り合いのユダヤ人ゲットー警察の機転で難を逃れる。

 

一人残ったシュピルマンは強制労働を課されるが、やがてゲットーを脱出し知り合いの援助により隠れ家に潜む。ドイツ軍の脅威をかいくぐり隠れ家を渡りながら生き延びていたが、1944年ポーランド人のワルシャワ蜂起で街は廃墟と化し、友人らによる食料の差し入れが滞ってしまった。そして一人食物をあさっていたシュピルマンは、ついにドイツ人将校に出くわしてしまうのである。シュピルマンがピアニストであることを知った将校は、彼にピアノを弾くように命じた。将校はソ連が侵攻し戦争がじき終わることを告げ、彼に食料を調達する。(以上あらすじ)

 

ユダヤ系ポーランド人ピアニストのウワディスワフ・シュピルマンにより、自身の実体験を綴ったドキュメンタリー。彼が最初に執筆したのは1945年である。翌年に ”Death of a City" のタイトルで発行されたが、シュピルマンを救ったのがドイツ人であるという事実を理由に、冷戦下のポーランドでは絶版処分になる。1960年代の再販の試みも政治的理由で断念。初版から50年以上もたった1998年に、シュピルマンの息子によってようやく再販が実現した。2002年公開の映画はアカデミー賞3部門を受賞している。

 

ドイツ軍のワルシャワ侵攻後、ユダヤ人は壁で囲まれたゲットー(ユダヤ人隔離地域)に隔離される。不衛生と飢え、チフスの蔓延、ドイツ軍の蛮行、そして極限状態に追い込まれてゆくユダヤ人。その地獄絵図が詳細にしかも淡々とした筆致で描かれている。その惨状の中で、シュピルマンは幾多の運と生への執着により生き延びたのである。一方、発覚すれば自分たちも処刑される運命にありながらユダヤ人を助けた多くのポーランド人や、シュピルマンを救うようなドイツ軍将校が実際にいたことに胸打たれる。

 

Chapter 9 The Umschlagplatz(ウムシュラークプラッツ)~

知り合いの機転でトレブリンカ絶滅収容所行きを逃れたシュピルマン。

We had gone about halfway down the train when I suddenly heard someone shout, "Here! Here, Szpilman!" A hand grabbed me by the collar, and I was flung back and out of the police cordon.

(略)

  One of the policemen turned and looked angrily at me.

  "What the hell do you think you're doing? Go on, save yourself!"

  Save myself? From what? In a flash I realized what awaited the people in the cattle trucks.

 

Chapter 10 A Chance of Life~

ドイツ兵の気まぐれで生死が分かれる。

One afternoon, quite unexpectedly, a selection was made in our group.

(略)

those on the left to die, those on the right to live. He ordered me over to the right. Those on the left had to lie face-down on the ground. Then he shot them with his revolver.

 

Chapter 17 Life for Liquor~

食べ物をあさっているシュピルマンはドイツ将校に出くわす。

I was so absorbed in my search that I never heard anything until a voice right behind me said, "What on earth are you doing here?"

  A tall, elegant German officer was leaning against the kitchen dresser, his arms crossed over his chest.

 

Chapter 18 Nocturne in C sharp minor~

シュピルマンはドイツ将校の前でショパンのノクターンを弾く。

"What do you do for a living?"

"I'm a pianist." (略)

"Play something!" (略)

I played Chopin's Nocturne in C sharp minor.

(略)

Only now did he seem to understand my real reason for hiding among the ruins. He started nervously.

"You're Jewish?" he asked. 

"Yes."

 

本書の前後に、再販に携わったシュピルマンの息子による前書きや、ドイツ軍将校ウィルム・ホーゼンフェルド本人の日記の抜粋が含まれていて、物語の理解が深まる。過去に映画を見た際には、将校がシュピルマンのピアノ演奏に心打たれて彼に手を差し伸べたのだと思っていた。しかし将校はもっと前の段階から自分たちドイツ軍の狂気に苦悩していたのである。彼が以前は温厚な教師であったという家族の回顧も記されている。彼はソ連による逮捕の7年後、スターリングラードの収容所で精神を崩壊し死亡した。

 

Diary of Captain Wilm Hosenfeld ~

14 February 1943

迫害のあまりの残忍さにドイツの敗北を確信するウィルム・ホーゼンフェルド。

Then again, looking back over this wartime period, I just cannot understand how we have been able to commit such crimes against defenceless civilians, against the Jews. I ask myself again and again, how is it possible?  There can be only one explanation: the people who could do it, who gave the orders and allowed it to happen, have lost all sense of decency and responsibility. They are godless through and through, gross egotists, despicable materialists. When the terrible mass murders of Jews were committed last summer, so many women and children slaughtered, I knew quite certainly that we would lose the war.

 

6 July 1943

労働者たちはナチスに同調し中流や知識層は傍観していただけだ。

The workers went along with the Nazis, the Church stood by and watched, the middle classes were too cowardly to do anything, and so were the leading intellectuals. 

 

ホロコーストに関しては、高校生当時に見たテレビドラマ  ”ホロコースト-戦争と家族” が私にとっての最初の衝撃だ。その後映画や小説を通してユダヤ人迫害の歴史に関しては一通りの知識はあるつもりでいたが、今回改めて英語版の原作を読み、ワルシャワの街でユダヤ人、ドイツ人、そしてポーランド人がそれぞれの立場で戦争に翻弄されていく様に思いを巡らした。原書は200ページ程。今回は第1章の時点で初めにワルシャワゲットーに関してネット検索し、基礎知識が入ると英語の難解さはあまり感じられなくなった。多くの人に読まれるべき作品だ。久々にショパンのノクターン20番が弾いてみたくなった。

2019.3

Becoming Nicole

Amy Ellis Nutt

★★☆  英語難易度

トランスジェンダーの問題をテーマにした家族のヒューマンドラマ。


あらすじと感想

KellyとWayneのMaines夫婦はなかなか子供に恵まれずにいたが、親類から一卵性双生児の男の子WyattとJonasを養子に迎えることになった。程なく、夫婦は二人の違いに気づく。Jonasは男の子の遊びが好きだったが、一方Wyattはドレスアップやバービー人形など、女の子のような遊びが好きだった。母親のKellyはそんな二人のことを自然に受け入れていた。

 

小学校に入り、Wyattは次第に生きづらさを募らせていく。女の子の心を持ったトランスジェンダーの彼女は名前もNicoleと改めるが、学校生活様は容易ではなかった。Nicoleが女子トイレを使うことでJacobからいじめを受け、その祖父のMelansonからも執拗に非難を浴びるようになる。結局一家は父親Wayneを残して転居を余儀なくされ、隠れるように生活しなくてはならなくなった。

 

初めはトランスジェンダーのことを受け入れられずにいたWayneも、Nicoleを守るためその事実を公にすることを決意する。そして、一家は世の中の理解を得るために自ら立ち上がり困難を乗り越え、Nicoleは大学入学を前に性転換手術を受ける。(以上あらすじ)

 

ピューリッツァー賞受賞歴のあるジャーナリスト Amy Ellis Nuttにより、2015年に発行。著者が、Maines家の人々や医者、弁護士、周囲の友人、そして学校のカウンセラーらに膨大な時間のインタビューを行って、回想録を執筆したと記されている。私にとっては、あまり馴染みがなかったLGBTの問題に関心を持つ良いきっかけになった。

 

本書の主な舞台となるのは、アメリカの最北東部のメイン州。アメリカ、特に早くから開拓が進んだニューイングランドと聞くと日本よりずっと進んでいるように感じる。しかし、地方の町の住人は多くが保守層で、彼らには宗教の信仰もありそう容易くLGBTを受け入れることはできないようだ。Maines夫婦自身も伝統的な保守的な家に育ったのだが、彼らは我が子を守るために立ち上がり周囲の人々と闘っていく。

 

CHAPTER 25より~

非難されるのは黒人、ユダヤ人、今度はLGBTだとNicoleは思う

First it was African American, then it was Jewish people, now it's the LGBTQ community. Really I think people just want something to complain about, so they target minorities.

 

CHAPTER 37より~

ホワイトハウスに招かれオバマ大統領のスピーチを聞く

We'll get there because of all of you. We'll get there because of all of the ordinary Americans who every day show extraordinary courage. We'll get there because of every man and woman and activist and ally who is moving us forward by the force of their moral arguments, but more importantly, by the force of their example.

 

表紙は、NicoleとJonasがほほ笑んで並んでいる写真だ。Maines 夫婦と子供たちは実際にそれぞれ私たち家族と同年代で、この笑顔の裏にいくらばかりの苦労があったであろうかと推測する。幼い時からずっと違和感や生きづらさと戦ってきたNicoleとその家族の物語を通して、トランスジェンダーとは排除されるようなものではなく、個性の一つであるということがよく伝わってきた。英語は、医学用語など難解な単語がそれなりに出てきたが、それらをスルーすれば、読むのに苦労するというほどではなかった。

2019.2

メイン州  (Wikipediaより)

Because of Winn-Dixie

(きいてほしいの、あたしのこと

  ウィン・ディキシーのいた夏)

Kate DiCamillo

★☆☆  英語難易度

少女と犬のウィン・ディキシーと町の人たちとの温かい交流を描いた児童書。


あらすじと感想

アメリカ、フロリダ州。主人公の10歳の少女オパールは、この夏、ナオミという田舎町に引っ越してきたばかり。母親は彼女が3歳の時に家を出て、牧師の父親と二人暮らしだ。友達がいない彼女は、スーパーで偶然出会ったのら犬をウィン・ディキシーと名付け、家で飼うことにする。オパールはウィン・ディキシーをどこにでも連れて行って、町の大人たちや子供たちと友達になっていく。図書館の老婦人ミス・フラニィ、ペットショップで働く前科のあるオティス、眼の悪い老女グロリア・ダンプ、いつもからかってくるデューベリー兄弟、本好きな少女アマンダ、まだ5歳のスウィーティ・パイ。オパールはパーティを計画し、みんなを招待する。(以上あらすじ)

 

2000年に出版されベストセラーになった児童書で、2005年映画化。オパールも登場する人たちもそれぞれが孤独でさみしさを抱えているが、ウィン・ディキシーとの出会いで皆が友達になっていくという読後感の良いストーリーだ。10才のオパールが語り掛けるようなシンプルな文章で、180ページ程に大きめの文字だからあっという間に読める。アメリカの小学生の夏休みの読書に丁度良いような、心の成長が得られる物語だった。

 

YouTubeで映画版を覗いてみると、ウィン・ディキシーとオパールが更に愛らしく、町の様子もよくわかって楽しめた。フロリダと言えば華やかなマイアミなどをイメージしてしまうが、ここは本当にアメリカによくあるような田舎町。少々ネット検索してみると、小説中のナオミは架空の町だが、スーパーマーケットのWinn-Dixieは、実際にフロリダを中心にアメリカ南部で展開されているチェーン店である。オパールの家があるトレーラーパーク(トレーラーで移動できる形の家をとめて生活できるようにした場所)には、一般に、家を購入できない貧しい白人層が多く住んでいるとのこと。表紙の犬に惹かれて選んでみたが、かなり道徳的なお話だったので次はまた多少は刺激のある大人用の小説を読もうかな。

2019.1

The Last Girl

(イスラム国に囚われ、戦い続ける女性の物語)

Nadia Murad

★★☆  英語難易度

(^^)/  お薦め

2018年ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドの回想録。


あらすじと感想

イラク北西部の村コチョで、貧しくも愛する家族と暮らしていたナディア・ムラド。しかし、イスラム国(ISIS)の脅威が次第に強まり、2014年8月、ヤジディ教徒殺戮が行われた。ナディアの兄弟らを含む男たちは虐殺され、若い女性はバスに詰め込まれ拉致された。シンジャールを経てISIS占領下のモスルの街まで連れ去られたナディアは、一人の男の性奴隷として買われてしまう。逃亡が発覚し再び売られた彼女だが、再度訪れたチャンスを逃さず逃げ出し、モスルの街の一軒の家に助けを求めた。幸運にも善良な一家に出合ったナディアは、危険をかいくぐって安全なクルディスタン地域まで送り届けられる。(以上あらすじ)

 

2018年発行。ナディア・ムラドは1993年生まれ。2018年のノーベル平和賞受賞者。

中東は馴染みがなく、小説最初に記されたイラクの地図で都市名を追いながら読んだが、それでも歴史や宗教は複雑で、ネットで背景知識の検索が必要だった。イラクの民族は、大多数のアラブ人と北部のクルド人からなり、言語はアラビア語、クルド語が公用語となる。宗教で見るとイラク国内のほとんどがイスラム教徒で、その内シーア派が多数派だが、コチョ村やシンジャール、モスルはスンニ派地域にある。(イスラム教は、世界規模では90%がスンニ派。ISISもスンニ派である。下記参照。)

 

著者は、そのいずれにも属さない、少数民族のヤジディ教徒で、それゆえ、ISISの迫害の対象になる。ちょうど、第二次大戦中のナチスドイツのユダヤ人に対するホロコーストと同じだ。男たちが集められ殺戮される描写は生々しく残虐で、少年だけは洗脳して兵士にするため、かろうじて殺害を免れる。一方、バスに乗せられた女性たちも、戦争の道具として売られ、イスラム教への改宗を求められる

 

拉致後に女性たちが受けた仕打ちは屈辱的で、読んでいて心が痛む。ナディアは恐怖の中、詰め込まれたバスの中で一人声をあげ抵抗する。しかも、眼をつけられたモンスターのような巨漢の男だけは耐えられないと、別の小柄な男に買ってもらうよう自ら乞うという行動に出るのだ。そして、絶望の中でも生き延びる希望を失わず逃亡を図るのである。

 

PART 2 Chapter 2より~

シンジャールの街はいつも通り。なぜだれも助けてくれないの。

With only Sunni Muslims left in Sinjar City, I was amazed to see that life was going on as usual. (略)

Civilian cars filled the road in front of us and behind us, the drivers barely glancing at the trucks full of women and children. We couldn't have looked normal, stuffed into the backs of trucks, crying and holding on to one another. So why wasn't anyone helping us?

 

物語後半、モスルの街でたまたま駆け込んだ一家がナディアの逃亡を手助けし、いくつもの検問所をくぐり抜け生還するくだりは緊張が走る。ISISの支配は組織的に計画されたものだったが、失敗だったのは女性に黒いアバヤとニカブを着用させたことだと、ナディアは記している。ナディアたち奴隷(サビヤ)も同じように顔を隠すことができ、街のムスリム(イスラム教徒)の女性との区別もつかなくなった。そのため、偽造IDを作ってムスリムの妻と偽り、夫婦で妻の家族に会いに行くと装って、タクシーに乗り込み脱出することができたのだ。

 

PART 3 Chapter 8より~

救出されたナディアは母のような女性に声をかけられると緊張がとけ号泣する。

She was about my mother's age and, like my mother, wore a flowing white dress and white headscarf. Seeing her, all the restraint I had tried to practice since leaving the Islamic State house in Mosul left me. I went crazy. 

 

イスラム教を理解するのは難しいが、同じムスリムの中に宗教を曲解してISISに走る人間がいる一方、ナディアのような女性を助けようとする人たちも存在する。自分たちの生活も苦しく見つかれば命の保証もない中、"It was my duty. That's all." と、見ず知らずのナディアを助けることこそ宗教の力だと感じ入った。我々日本人には到底真似できない。

 2019.1 

朝日小学生新聞記事(2014.7)より(わかりやすい記事があったのでリンク)